TOP INTERVIEW
経営者に聞く
時代とニーズの変化に応えながら期待を上回る滞在体験を【ホテルニューグランド】
日本を代表するクラシックホテルの一つであるホテルニューグランド(運営:ホテル、ニューグランド[横浜市中区])。1927年(昭和2)の開業からまもなく100周年の節目を迎えるが、歴史を彩ってきた各界の著名人や地元・横浜市民に長年親しまれてきた風格と温かみのあるおもてなしは、今も健在だ。昨年12月1日、同ホテルの取締役営業本部長総支配人に木曽博文氏が就任。大学卒業後の1993年4月、ホテル、ニューグランドに入社した木曽氏は、同ホテル初の生え抜き総支配人になる。100年間受け継がれる同ホテルのおもてなしと100周年に向けた挑戦を聞いた。
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――大学卒業後にホテルニューグランドに入社した。
木曽 学生時代にホテルやレストランでアルバイトを経験し、接客サービス業に興味を持ちました。
大学卒業後はサービス業の頂点としてホテルへの就職を漠然と考えていました。とはいえ、正直なところホテルニューグランドに特別な思いがあったわけではなく、内定をもらった企業の中で「地元だから」という理由で選んだ次第です。
――老舗ホテルとして長年親しまれてきた。
木曽 親子2代・3代にわたってレストランを利用されたり、結婚式を挙げたりされる方たちが数多くいらっしゃいます。私が就職した1993年は、ちょうどタワー館が開業してから2年、本館の改装工事から1年が経った時期でした。本館の建物やサービス、ホテルを愛した著名人にまつわるエピソードを、私の方が顧客から教えてもらうことも珍しくありませんでした。
ホテルニューグランドは、1923年(大正12)の関東大震災で瓦礫の山となった横浜の街に、復興の象徴として1927年に誕生しました。当時から今に至るまで地元の皆さんに愛されてきたことこそが、私たちにとってかけがえのない価値となっています。
――利用客とのコミュニケーションが密にされてきた。
木曽 時代の変化に伴って顧客のニーズ、あるいは顧客層も変化していきます。これにいかに応えながら期待を上回る滞在体験を提供できるか、常に模索を続けているところです。
私のキャリアはベルスタッフから始まったので、ロビーを訪れる全ての方が顧客であり、こちらから挨拶し、行き先に迷っているようであれば「ご案内しましょうか?」「本日はどちらにお出かけですか?」と進んで声掛けしてきました。この姿勢は今も変わらず、常に顧客のニーズに気を配り、先回りしながらさりげなく声掛けをすることに努めています。
また、クリンリネス、清潔な空間の維持にも特に注意を払ってきました。これもベルスタッフ時代からの経験で、床にごみが落ちていたり、ガラスに手あかがついていたりしたら、職務に関係なくきれいにするよう努めています。今も、顧客や空間に、常に全方位で気を配るようアンテナを張り続ける姿勢を求めているところです。
――近年は日常生活でデジタルサービスを扱う機会が増え、顧客のニーズも変化している。
木曽 本館は2014年に改修工事を行いましたが、タワー館も開業から30年が経過しました。設備の更新や改装は簡単にできることではありませんが、可能な範囲内で備品や設備を充実させながら、要望に応えるよう努めています。
デジタルの活用は、私たちスタッフにとっても検討が急務だと感じています。実は最近、いくつかの社内プロジェクトを立ち上げましたが、その一つは「デジタル化プロジェクト」。業務のデジタルへの置き換えを検討しています。
当ホテルには7つの料飲施設があるのですが、現在、各施設の営業報告はそれぞれのスタッフが毎日集計作業を行って本部に提出し、本部がこれを取りまとめる、という流れを取っています。これにRPA(Robotic Process Automation)を導入すれば、各店舗の集計作業や本部の集約作業が全て自動化され、スタッフの負担が大幅に削減されます。
私たちスタッフの日々の業務を見直す機会にもなります。業務の一部をデジタル技術に置き換えることによって、スタッフが顧客と向き合う時間を創り、接客に集中することができる。それがホテルとしての価値向上、および新しい価値の創造に繋がると考えています。
――ほかにどのような社内プロジェクトがあるのか。
木曽 当ホテルはまもなく100周年の節目を迎えます。これに向けてどのように盛り上げていくかを検討する「100周年プロジェクト」もあります。
具体的な企画はこれからですが、この機会がスタッフ一人ひとりにとって貴重な経験になることを期待しています。実は、1997年の70周年の際にも社内プロジェクトが立ち上がりましたが、私は自ら立候補してプロジェクトに参加しました。この時のメンバーと「次は100周年の企画を立ち上げよう」と語り合い、私自身にとって働く意欲に繋がったことを覚えています。
会社が100年続くことの希少さと、その価値や意義に触れるまたとない機会に関われることを喜びに変えて、仕事のモチベーションに繋がるよう、スタッフを後押ししていきたいです。
(国際ホテル旅館2024年8月5日号)