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  • 25.11.06

第10回 レベニューマネジメントの課題と未来【令和のレベニューマネジメント新常識】

第10回 レベニューマネジメントの課題と未来【令和のレベニューマネジメント新常識】

日本の宿泊施設におけるレベニューマネジメントは、私が前職時代にシステムを製品化した2003年頃に始まり、以後約20年を経て、今では宿泊運営に必要不可欠なものとなりました。この間、宿泊予約手段はインターネットが主流となり、その重要性は年々増していきました。

当初はシティホテルにしか運用できないとも言われましたが、私はビジネスホテルや旅館にも普及すると予見し、2012年11月、C&RM社を設立しました。この社名はCRM(顧客関係管理)とRM(レベニューマネジメント)の融合を意味し、単なる価格操作ではなく、リピーター施策や施設の魅力向上を含む集客力アップとレベニューマネジメントを組み合わせた運用を提案したい、との狙いがありました。

 

しかし、その直後からインバウンド市場が拡大し、価格操作としての側面に注目が集まるようになりました。並行して低コスト・省人化で運営可能な宿泊特化型ホテルが多店舗化を進めていきました。料飲・宴会部門を併設せず、清掃業務も外注にすることで、少人数かつ効率的に開業できるようになり、客室数を最大化する設計とバックオフィスの狭小化が進みました。

予約数が増える中でレベニューマネジメント担当者の業務負担が増し、確保も難しくなったことで、予約業務を本部に移管・集約する流れが進みました。これに伴い、コンサルタントやシステム会社は本部運用を想定したサービス・ソリューションを提案し、「売上責任は本部」「顧客満足(CS)責任は現場」といった分離体制を多くのホテルが採用するようになりました。

 

CRMの本質は行動経済学と密接に関係しています。ビジネスの世界に限らず人間関係等にも応用できる話ですが、「人はなぜリピートするのか」を突き詰めると、その中心には「インセンティブ(動機づけ)」があります。一般的にはポイントや割引・安さの訴求と限定されがちですが、実は、人間の行動の多くはインセンティブが引き金になることが少なくありません。

代表的なインセンティブの一つが「評価」です。

今のホテル運営の主流である「本部が売上責任を持ち、現場がCS責任を担う」構造では、「宿泊料金が高いのに接客がひどかった」等、インセンティブの相反=利益相反が生じる場合があります。この歪みは2020年以降のコロナ禍に顕在化し、特に2022年秋に始まった「全国旅行支援」が現場の負担増大を招きました。同制度によって経営面で救われた事業者も多かったと思いますが、現場はクレーム対応に追われ、離職者が続出するきっかけにもなりました。

 

ここで浮き彫りになったのは〝フロントスタッフのモチベーション低下〟です。

人手不足の中で宿泊客が殺到し、不満をぶつけられ、その結果口コミ評価や満足度が落ちていく。売上の手柄は本部が独り占めし、その本部からは不手際ばかりを責められる。これが、現場スタッフの皆さんが置かれてきた状況です。

結果、宿泊客が少ない方がマシだと感じてしまうか、意欲を失って退職するか、こうなるのも致し方ないと思います。こういった組織の構造と人事評価の歪みが、人手不足を助長しているのではないでしょうか。

 

小林武嗣氏(C&RM社長)

(国際ホテル旅館2025年11月5日号)

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