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  • 26.05.21

CES2026レポート(最終回)観光DXとIXの時代:CESから見える変革の兆し【視点を増やして観光DXを加速】

「足腰に不安があるから」「家族に迷惑をかけたくないから」。超高齢社会を迎えた日本では、こういった理由からそっと旅を諦めてしまうシニア層や身体に障害を持つ人が少なくありません。

今回のCESでは、そんな人たちの背中を力強く押す希望に満ちた技術も見受けられました。注目すべきトレンドの一つが、宿泊施設のユニバーサルデザインを根底から覆す「空間センシング技術」でした。AIを活用した次世代の「パーソナライズ・ルーム」は、手すりの設置や段差の解消といった従来のバリアフリー対応とは、発想自体が大きく異なります。

客室内にセンサーとAIを張り巡らし、身体的制約を持つゲストのわずかな動きや行動パターンをリアルタイムで感知。ベッドから起き上がろうとすれば足元の照明が最適な明るさで点灯し、車椅子や杖を使って近づくと、絶妙なタイミングでドアが自動開閉します。空調やブラインドの調整も、個人の状態に合わせて自動で最適化されます。

特筆すべきは、これらのサポートが「介護・福祉」を意識させるような無骨なものでなく、洗練された客室デザインの中に自然に溶け込んでいる点です。ゲストは「手助けされている」と感じることなく、自立した快適な滞在を楽しめます。まさに、これこそが真のユニバーサルデザインと言えるのではないでしょうか。

客室外での行動を支える技術も急速に進化しています。衣服の下に装着しても目立たないほど軽量化された歩行支援用のパワーアシストウェアや、周囲の障害物や景色を音声で知らせ、視覚を補完するウェアラブルデバイス等の登場は、失われた身体機能を補うだけではなく、「あの場所へ行ってみたい」という意欲そのものを取り戻す力があると感じました。

「旅を諦めている」層は、観光・旅行産業にとって未開拓の巨大な潜在市場でもあります。

あらゆる身体的・心理的制約を取り払い、全ての人が平等に旅の喜びを享受できる環境を提供する「インクルーシブ・ホスピタリティ」。これこそが、今後の宿泊業における最大の成長領域であり、競争力の源泉になることは間違いありません。テクノロジーの進化が、人に寄り添う温かな「おもてなし」へと確実に昇華されつつあります。

今年のCESでは、AIの位置付けも大きく変化しました。コンピューターやスマートフォンの中だけで完結せず、現実の物理空間=フィジカル空間で状況を感知し、AIが思考・判断を行い、物理的な行動=アクションを起こすシステムが具現化されてきました。

フィジカル AIは、ロボットや機械といった「身体」を持ち、現実世界へ直接干渉する点が最大の特徴です。これがユニバーサルデザインを進化させ、健常者、高齢者、障害者を問わず、誰もが快適に過ごせる真のバリアフリー化を加速させています。

藤原猛氏(タップ ホスピタリティサービス工学研究所 所長)

 

(国際ホテル旅館2026年5月20日号)