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ホテルを安全に過ごせる「避難所」に【L&G GLOBAL BUSINESS/CHILLNN】

ホテルを安全に過ごせる「避難所」に【L&G GLOBAL BUSINESS/CHILLNN】

緊急事態宣言の発令でstay homeが推奨された中、家にいることや家族と共に過ごすことがかえってリスクになる人たちもいる。こうした居場所に困る人のために、ホテルをシェルター=避難所として提供する試みが始まった。企画したのは、ソーシャルホテル「HOTEL SHE,」などをプロデュース・運営するL&G GLOBAL BUSINESS(京都市南区)の代表取締役・龍崎翔子氏だ。

同社と関連会社のCHILLNN(チルン)は、自宅以外の滞在場所を必要とする人にホテルの客室などを提供・マッチングするプロジェクト「ホテルシェルター(HOTEL SHE/LTER)」を始動。5日1日に直営ホテルのHOTEL SHE, OSAKA(大阪市港区)で運用を始めた。

プロジェクトは4月下旬に発表し、同月27日の時点で450名から事前申し込みがあった。HOTEL SHE, OSAKAでは1泊1室3300円から、2名1室の場合は同4400円から販売し(いずれも税込み)、最低5泊以上を条件とする。
運用にあたっては、感染症専門医でKARADA内科クリニック(東京都品川区)の佐藤昭裕院長が監修した独自のガイドラインを策定。利用客や従業員の安全を確保する。また、プロジェクトの運用には利用客の協力も欠かせないとして、遵守事項をまとめた同意書も配布する。
プロジェクトの全国展開も進める。5月中に同社直営のホテル5施設で順次受け入れを始めたほか、自社以外の宿泊施設でも6月を目処に受け入れを始める予定だ。同社によれば、5月21日時点で230軒・4000室規模の宿泊施設がプロジェクトの趣旨に賛同して連携を表明しているといい、全国展開に先立つ5月25日には専用の予約サイトをオープン。発信にも力を入れていく。

L&Gグローバルビジネスは4月27日、「ホテルシェルター」に事前申込をした個人450名を対象にアンケート調査を実施。「利用したい理由」(複数回答可)を取りまとめたところ、回答者の3割が「家族に感染させないか不安」、2割が「家庭内にトラブルを抱えている」ことを挙げたという。
龍崎氏は「果たして全ての人にとって『STAY HOME』がベストなのか、という疑問があった。調査を通じて、自宅に留まることがかえってリスクになる人もいることを確信した」と語る。同社ではDV対策に力を入れる自治体や団体とも調整を進め、利用客のプライバシーと安全を確保した上で特別な受け入れ態勢を整える。宿泊料金が支払えない利用客のために企業や個人による資金・物資の支援も呼び掛けていく。

同業の宿泊業には、施設や雇用を維持するための収益を得る新たなビジネスとしてホテルシェルターへの参画を提案する。
龍崎氏は「今後も第二波・第三波の感染拡大リスクがあり、外出自粛という同調圧力の中で観光誘致を積極的に行いにくいなどの背景から、当面の間、観光業は低迷が続くだろう」とみる。宿泊業も、レジャーや出張といった従来の需要を前提とすることから転換を図り、時代に沿った需要を模索する必要性を訴える。「空間を短期・長期的に賃貸する『不動産業』や、衣食住を提供できる機能を活かした『福祉・ケアサービス』、あるいは非日常的な時間を提供できる特徴を活かした『エンターテイメント』など、時代の潮流を踏まえたビジネスモデルに転換を図ることで新たな価値の提供ができるはず。こういった新たな挑戦に、賛同・共感してくれる同業者と連携して取り組みたい」(龍崎氏)。
現在、ホテルシェルターには大手ビジネスホテルチェーンや独立経営のホテル・旅館、一棟貸しの高級施設など、規模・業態を問わず幅広い施設が参画の声をあげている。龍崎氏は「集客が難しい状況の中、時代に沿ったニーズに応えるために送客したいという施設もあるが、居場所に困っている人・苦しんでいる人たちを救いたい、という想いで参画する施設も多い」と語る。