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  • 25.05.05

第4回 公正取引委員会警告のニュースの衝撃【令和のレベニューマネジメント新常識】

4月17日の早朝、私はシステムメンテナンスのため、夜間から作業を続けていました。そんな最中に驚きのニュースが飛び込んできました。公正取引委員会が、東京都内のホテル運営会社15社に対して「カルテルの疑いがある」として警告を検討している、というものです。

報道によれば、これらのホテルは担当者が月に一度集まり、稼働率やADR(平均客室単価)などの数値情報を交換。さらに、将来の販売計画についても共有した可能性がある、とのことでした。

私はこの件に関して、ある程度の内情を知っており、率直な感想は「そんな馬鹿な!」というものでした。今回、公取委から指摘を受けたのは「東京FR会(フロント・リザベーション会)」で、実態は懇親会のような集まりだったと理解しています。何が問題視されているのか全く見当がつきません。

東京では外資系ブランドを含め、都心部を中心に数え切れないほどのホテルが営業しています。そのうちの15社だけで価格を操作できるはずがありません。仮に、これが橋などの公共施設の建設工事をめぐるものであれば、施工を請け負える会社が限られるため、談合/カルテルと指摘される余地もあるでしょう。航空会社だと国内は大手2社が市場をほぼ独占していますから、2社が主導する価格調整も現実味がある話です。

一方、東京のホテル15社が、たとえそれらが有力ブランドであったとしても、「高く売ろう」と談合したところで、周囲にある他のホテルが一斉に価格を下げれば、その潮流に勝てるはずがありません。

今、宿泊料金の設定には、程度の差こそあれレベニューマネジメントの技術が使われています。特に東京のような需要変動が激しいエリアでは、たった1日で状況ががらりと変わることが珍しくなく、より高度なシステムが当たり前に稼働しています。それを、月1回の会合でコントロールすることなど、不可能だと思います。

今回の報道を詳しく見てみると、数値情報の交換が行われていたものの、価格への明確な影響は認められず、しかし、今後そのような事態が起きる恐れがあるとして警告を出すことを検討しているとありました。 「恐れがあるから警告」——その曖昧さに、私は二度驚きました。これではまるで、街角に人が数人集まっているだけで「暴動の恐れがある」として警察が解散を命じるような乱暴さです。

この警告の背景に「高騰した東京の宿泊料金を抑えたい」という、見えない力や意図が見え隠れしてしまうのは、私だけでしょうか。

インバウンド需要は順調に伸びているとされていますが、実際のところ、一部の国・地域の伸びが鈍化しているとも指摘されています。さらに、国内旅行者の間では宿泊料金の高騰に対する不満の声が広がっています。

こうした懸念材料を払拭するためにも、宿泊料金の過度な上昇は望ましくないと考える向きがあるのではないでしょうか。国内旅行者の不満のガス抜きとしても、今回の件がスケープゴートにされたという見方も行き過ぎではないでしょう。

こうした会合は全国各地に多数存在しています。今回の件で宿泊業界が過度に対応し、こうした貴重な機会が失われてしまうことを懸念しています。

政治や行政は、決してホテル・旅館業の味方ではありません。彼らが主眼としているのは「インバウンド市場の拡大」であり、ホテル・旅館は、あくまでもその受け皿の一つとしてしか捉えられていません。施設数・客室数が不足してしまってはインバウンドを呼び込めませんが、だからといって宿泊経営をより良くしようとは考えていません。廃業しないように補助金を出すことはあっても、経営が安定して儲かるようにするつもりはないのです。

それを強く感じたのは、2018年秋、京都市が「京都市にはホテルが足りない」と訴えた記事が出た時です。実際には、紅葉や桜などの繁忙期を除けば、京都市は供給過多にあり、平日には3000円台の宿泊料金も散見されました。

たった1カ月の繁忙期のために「供給不足」を訴え、施設の増加を促す。それ以外の11カ月間は宿泊事業者が苦しもうと関係ない、という行政の姿勢を感じました。

これでは、宿泊事業者の労働生産性はいつまで経っても上がりません。当然、スタッフの賃金アップも望めず、慢性的な人手不足と採用コストの上昇、そして宿泊料金の高騰という悪循環を断ち切れなくなります。

もし、本当に警告が出されるようなことになれば、それは不当な対応であり、業界団体はぜひ強く抗議して撤回を求めるべきだと私は考えます。さもなくば、根拠が曖昧な指摘によって「横のつながり」が断たれ、全国の同様の会合も解散・休止の動きが広がってしまう恐れがあります。

「何がよくて、何がダメなのか」が不明確では、業界の健全な発展も妨げられます。ガイドラインも無いまま全国に波及するようなことがあれば、地域DMO(観光地域づくり法人)や宿泊・観光施設と連携した面的な観光の盛り上げに水を差し、観光地の魅力向上に大きな打撃となる可能性もあります。

小林武嗣氏(C&RM社長)

(国際ホテル旅館2025年5月5日号)

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