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  • 本紙好評連載
  • 25.05.20

第19回 デジタル技術を活用した宿泊運営の実践【視点を増やして観光DXを加速】

先日、あるホテルを利用しました。フロントの光景は今も昔あまり変わらず、スタッフの皆さんはPMS(ホテル基幹システム)の管理画面を操作しながら、チェックイン応対を行っていました。

私が到着した時、フロントには5 名のスタッフがいて、モニターに目を向けながら手際よく操作していました。ちなみにそのホテルは客室数が500 室以上のフルサービスホテルで、単純計算で100 室あたり1 名のフロントスタッフが配置されていることになります。スタッフ一人あたりの平均年収を450 万円とすると、フロント業務における人件費は少なくとも年間2250 万円になります。

この人件費にどのような価値があるのかを考えたいと思います。今回私が受けたサービスは、チェックイン、チェックアウト、手荷物の預かり、そして預けた手荷物の受け取りの4つです。チェックインの際、フロントには行列ができており、一人のスタッフが空いた窓口へ案内していました。つまり、総勢6 名でオペレーションされていました。

これを「人によるホスピタリティ」と評価することは、正直、過去のことになりつつあります。時代に合わせて考え方を変える必要があるのではないでしょうか。

 

ホスピタリティの表現方法は時代の変化に応じて変わる

私はこのホテルに会員登録をしており、過去に何度も利用しています。館内施設や過ごし方の提案などを改めて確認する必要はなく、ルームキーさえ受け取れば、そのまま客室に向かうか、あるいはすぐに外出したいというのが本音です。

荷物預かりはベルデスクが対応しましたが、引換用の札に記入するために数分待つ必要がありました。その間、近くのソファで待つよう案内されましたが、「これが本当に〝世界に誇る日本のホスピタリティ〟か?」と疑問を抱かずにはいられませんでした。

以上のことは、デジタル技術とそれを活用したサービスに置き換えれば、大幅に時間や手間を短縮できることばかりです。もちろん、デジタル化によってそのホテルのホスピタリティや接客理念が失われてしまっては意味がありませんが、時代に合わせた対応もまた、必要不可欠です。

具体的な手法については、この連載で何度も触れてきたので本稿では詳細に述べませんが、いまや世界的なラグジュアリーホテルブランドでもデジタルサービスの高度化が進み、宿泊客と対面するフロントばかりでなく、その裏側にも投資することが常識となっています。その結果として労働生産性が向上し、業務効率化や接客品質の向上が実現するのです。

デジタルサービスの高度化が観光産業全体でスタンダードになれば、いきなりそのレベルに追いつこうとするのは困難です。だからこそ、少しずつでもDX(デジタルトランスフォーメーション)への一歩を踏み出すことが重要です。初期投資を伴いますが、長期的な視点をもってデジタル技術・サービスを導入・更新することをお勧めします。

 

藤原猛氏(タップ ホスピタリティサービス工学研究所 所長)

 

(国際ホテル旅館2025年5月20日号より)